宇宙線とは

19世紀末、ガイスラーによる陰極線や陽極線の研究、レントゲンによる X 線の発見などを通して放射線が発見されました。1896年にはベクレルが、ウラニウム化合物を写真乳剤の近くにおくと写真乳剤が感光する事に気づき放射能が発見されました。ベクレルが発見した放射線は X 線と同様、空気を電離することが明らかにされました。電離電流を調べることにより放射線の性質を知ることができました。

ラザフォードはウラニウムやトリウムから出ている放射線の吸収測定から、放射線には少なくとも 2 種類有り、1つは電離能力は非常に大きいが、物質に吸収されやすく、紙一枚でも止まってしまう、もう1つは、電離能力は小さいが、物質を透過する能力は大きいことを明らかにしました。そして、前者をアルファ線、後者を ベータ線と名付けました。その後、このほかにもベータ線よりも透過力のある放射線が存在することも分かりました。そして、それを ガンマ線と名付けました。

電離の研究は、空気中の残留イオンについても行われました。エルスターとガイテルは箔検電器を用いて測定しました。ガイテルとウイルソンは検電器をシールドしたときにできるイオンペアを測定しました。また、ラザフォードは 5 トンの鉛を用いてシールドしイオンペアを測定しました。

彼らは、測定から得られるシールドしても残る残留イオンを気体中の汚染と考えました。エルスターとガイテルは、大気中にイオンが存在することを発見しました。

自然電離の測定は、ウルフの検電器を使い、汚染の少ない湖や氷河でも測定が行われました。また、1910年にはパリのエッフェル塔( 330 m )で測定が行われ、地上よりも電離が減少することを発見しました。しかし、得られた減少量は最も貫通力のあるガンマ$線が原因と考えると予想される減少量より少ないものでした。

エッフェル塔よりも高い高度での結果を得るために電離箱を気球に載せてもっと高く上がることが試みられました。その結果、電離度はゆっくり減少し、高さ 1Km 以上では高度変化がほとんどなくなりました。しかし、このとき使われた電離箱は気密ではなかったため、高空では圧力が減少し、電離箱内が減圧されて、イオンの発生率が減少します。このことを補正すると、高さとともに電離度が上昇するという結果が得られました。

1912年、ヘスは、気密の電離箱を気球に搭載して高度 5 km まで上昇し、電離度は高度 1Km まではゆっくり減少し、極小値をとってその後電離度は増す一方であることを発見しました。高度 5Km では、地上の 3 倍の値を得ました。左のグラフは A. M. Hillas "Cosmic Rays " 1972 による。

この実験は、疑いもなく放射線が上空から降ってくることを示していました。また、高度変化はガンマ線の大気による吸収よりもはるかに緩く、それまで知られていた放射線の何者よりも貫通力の強い未知の放射線と考えられました。それは、たぶん地球外から入射するもので、ドイツ語で Hohenstrahlung、または、cosmic ray 宇宙線と呼ばれるようになりました。

この発見を契機に宇宙線について、核物理、宇宙物理さまざまな方面からの詳しい研究が行われるようになりました。その結果、宇宙線は考えられないほどのエネルギーを持つ、放射線でありその中には陽子、ヘリウムの原子核、炭素や酸素、ウラニウムの原子核まで発見されています。これらの核成分に加えて、電子や陽電子、光子やニュートリノといった粒子も宇宙からやってきています。

現在でも、宇宙線がどうして加速されるのか、1020 eV以上にまでおよぶ広大なエネルギー範囲をカバーする理由、どこで発生しているのか、どのようにして宇宙空間を飛び回っているのかなど解決しなければならない課題はたくさんあります。