高エネルギー宇宙線の観測においては、宇宙線が地球に入射する頻度がエネルギーの上昇とともに急速に減少する ために、長時間観測機器を被爆させることが必要になってきます。JACEE 実験ではNSBF の協力により、米国内での気球実験の経験を基により長時間のフライトをめざして、南半球におけるオーストラリア から南米までの地球半周バルーンフライトを成功させました。
中緯度のフライトにおいては昼夜の温度差による気球高度の変化を補正するために大量のバラストを積む必要があり ます。それに比べて、南極のフライトは南極が夏の時期( 白夜 )に行われるために終日昼の状態が続きます。そのため、 気球に積むバラストを最小限に押さえることが可能となり、より大面積の観測機器を積むことができるようになります。 このことは、特に長時間の露出を必要とする高エネルギー宇宙線観測実験には最適の環境となります。また、南極にお いては夏期には気球飛行高度における風が極を中心に反時計回りに周回するために、気球は放球後 10 日前後で放球 地点に戻って来ます。条件が整った場合には、極を2周回させることも可能です。放球地点に戻ってきた時点で 観測機器を切り離せば、観測機器の回収も比較的楽に行うことができます。そのような、実験に対して好条件 が成り立つために、JACEE ではその後南極での気球フライト実験が行われて来ました。
1990年12月20日から29日にかけて他の観測機器と相乗りの形で JACEE 実験( JACEE-10 )の初フライトが 実施されました。このフライトでは、有効面積 0.24 m2のエマルションチェンバーが搭載され、 McMurdo 基地から放球された気球は高度 3.5g で 204 時間のレベルフライトを行い観測機器は回収されま した。このフライトによる実験は成功裏に終了し、大きな成果が得られました。実験結果に付いては宇宙線国際 会議、学術誌を通して報告が行われています。下の写真は、放球前に JACEE-10 が搭載された観測機器類を 撮影したものと、JACEE-11 実験での放球前に気球にヘリウムガスをつめている様子を撮影したものです。
JACEE 10 実験機器(ワシントン大学 HP より) | JACEE-11 バルーンフライト |
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南極おけるテスト実験の成功を通して、JACEE 観測装置のみを搭載したフライトがその後に行われるように なりました。これらのフライトでは、有効面積 0.2 m2 のチェンバーを 6 個搭載し、1回の フライトで有効面積 1.2 m2 を実現しました。1993年12月から1994年1月にかけて JACEE-11、 JACEE-12 のフライトが行われました。残念ながら JACEE-11 はフライト後の切り離しに際して、McMurdo 基地 近くのロス海に着地したために海中に沈み未回収の状態ですが、JACEE-12、1994年12月の JACEE-13、そして 1995年12月から1996年1月にかけての JACEE-14 と南極周回長時間バルーンフライトを成功させてきています。
南極における気球フライトにおいては平均して 1 極周回のフライトで 10 日程度の露出量が得られています。 そのため、これらの成功により露出量は急激な増加を見、現在のところ高エネルギー宇宙線直接観測においては 世界最高の総露出量を誇っています。JACEE-11、12、13 におけるフライト航跡図を下の図に示しています。
ところで、南極は地磁気緯度が高いために、比較的エネルギーの低い宇宙線も地球に入射することができます。 そのため、中緯度でのフライトでは問題にならなかった低エネルギー宇宙線のバックグラウンドが、解析したい イベントを探索する時に問題となって来ます。特に、このことは、イベントのトレース作業を困難にし、エマル ションチェンバー中の相互作用から親の1次宇宙線を同定する作業を難しくしています。JACEE では、JACEE-10 の解析で得られた Know How と JACEE がいままでに蓄積してきたイベント・トレース技術を改良することに よりこの問題を解決しています。
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